第85話：営業業績向上と職場メンバーが学び育つ管理
営業課長・所長が、内外の環境変化に適応しながら自職場の営業業績の向上を継続的に図っていくためには、そのために必要な職場メンバーの能力開発と職場の活力・風土の醸成が肝要といえます。
今回は、営業業績向上と職場メンバーが学び育つ管理について述べてみます。
よく「人は人として生まれてくるのではなく、人になるために生まれてくるのだ」といわれます。人は、生まれてから成人になるまで、さらに、組織人になってからも実に多くのことを学びながら育っていきます。
人がそれまでに身につけていなかった「能力」を新たに獲得することが「学習」であり、獲得していくプロセスを「学習過程」といっています。
日常、私たちは「学習」という言葉を「勉強して何かを覚える」といったニュアンスで使いますが心理学の世界では、一般に次のように定義しています。
学習とは、経験の結果として生じる認知構造（モノの見方や考え方の枠組み）の変化と比較的永続的な行動の変化であり、環境への適応行動である。
職場のメンバーもこの学習という現象を通じて新たなモノの見方や考え方、あるいは技能を身につけることで成長していきます。
しかし、ここで注意しなければならないことは、メンバーから見れば、営業課長・所長が行う育成活動は、外からの働きかけですが学習はメンバーの内側で起こる変化だという点です。営業課長・所長が効果的にメンバーの育成活動を行うためには、この学習についての知識と理解は必須なものであるといえます。
人の経験の仕方には、「直接経験」と「代理経験」という２つのパターンがあります。直接経験とは、まさに自ら行うこと、あるいは自らその状況に身を置くことによって生ずる経験です。これに対して、代理経験とは、他人の行動の結果や置かれた状況を観察することによって生ずるもので「間接経験」とも呼ばれています。
人の学習経験の大部分は、この観察による代理経験によるものだといわれています。
直接経験（行動による学習）による人の学習の特徴は、行動を引き出す刺激に対して、学び手が自らの「試行錯誤的行動」の積み重ねを通じて、環境に適応する行動を獲得していくことにあります。一方、代理経験（観察による学習）による人の学習の特徴は、学習の刺激が他人の行動や状況であり、この他人を「モデル」として観察することで学習が成立することにあります。
直接経験による学習は、刺激に対して自ら行動し、その結果が強化されていくことで成り立っていますが、代理経験による学習の場合には、モデルとなる他人の行動や状況を見ることで「ああそうか、こういう状況ではこう行動すればいいのか」と分かった段階、つまりモノの見方・考え方（認知構造）が変化した段階で、すでに学習が成立しているのです。
現代は「組織の時代」だといわれています。この社会で生活しているほとんどすべての人が、何らかの意味で組織とかかわりを持って生きています。まさに、人は人の間（はざま）で生きているのだといえます。それぞれの人々が対人的・集団的・社会的状況の中で代理経験つまり観察による学習を通じて、さまざまな事柄を学んでいくことを「社会的学習」と呼んでいます。
言い換えれば、人が社会的学習を通じて、何をどのように学んでいくかは、学習環境としての対人的・集団的・社会的状況によって決まってしまうのだ、といえます。
企業人にとって職場は最も身近で、しかも影響力の大きな学習環境であり、その学習の方向や能力開発の在り方は、職場状況によって決定づけられてしまう、といえます。
人材開発部門のスタッフがいくら新しい制度や教育プログラムを導入しても、それだけではなかなかうまくいきません。
営業課長・所長には、職場のメンバーが現実に活動する場、つまり仕事という貴重な教材を通してさまざまな体験を持ち学習を積み重ねていく職場の中にこそ、人が学び育つしっかりしたしくみをつくり込むことが必要となります。職場集団のなかにしっかりとした育成のしくみがつくり込まれていない職場では人材育成について高い成果を上げることは難しいといえます。営業課長・所長は、会社組織にあって人材育成の中心的役割を期待されるミドルマネジャーです。
御社の営業課長・所長の職場メンバーが学び育つ管理はいかがですか。
そのしくみづくりと運用・機能化はいかがでしょうか
最後までお読みいただきありがといございました。
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